Class Room Introduction
研究活動
Research Activities
研究グループのコンセプト
人は、人生において何度も心理的危機に遭遇し、人生の岐路に立たされます。もし私たちがそのような方に病院や地域でお会いしたなら、プロフェッショナルとして最良の問題解決アプローチを図り、患者さんをお助けしなければなりません。そのような強い思いから、河西着任直後の2015年に、「メンタルヘルス」、そして「危機介入」という言葉を関した臨床研究グループが生まれました。
研究テーマ
目下、研究テーマは以下の通りです。他の研究グループとの境を取り払い、オーバーラップするかたちで多くの医師・メディカルスタッフが参加しています。
1.救命救急センターを拠点とする自損行為患者に対する介入方略開発研究
2.がん患者のメンタルヘルス支援のための介入方略開発研究
3.病院内の自殺事故予防と事後対応研究
4.地域自殺対策研究(対策重点地域:別海町)
5.ジェンダー研究
6.キャンパスと職域と医療者のメンタルヘルス研究
7.高齢者のメンタルヘルス支援研究
8.メンタルヘルス支援のための IT ツール開発研究
9.精神病理・精神療法研究
その他、周産期のメンタルヘルス支援に関して。麻酔科/産科、そして保健医療学部助産学専攻とそれぞれ個別のテーマで共同研究が開始されています。
メンバー紹介
2021年9月現在、医師11名(大学院生4名)、専門看護師1名、PSW2名、心理士8名(大学院生1名)が所属しています。
当教室ホームページに、「WHO 刊行の自殺予防の手引きの正式日本語版(PDF)」を掲載しています。
現在施行中の研究に関するお知らせ
研究概要はこちら
各種臨床研究の実施
超高齢化社会において、高齢者のメンタルヘルス対策、ことに認知症のケアは社会的に重要課題となっています。認知症研究グループでは、もの忘れ外来と当科病棟を拠点に認知症患者さんのための最良の医療の提供を行うとともに、以下の各種臨床研究を実施しています。
・認知症の疫学研究
・イメージングを用いたアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症の病態研究
・抗認知症薬の薬効研究
・認知症の早期診断・早期治療的介入のためのバイオマーカー研究
具体的な研究についていくつかの例を示します。
1. アルツハイマー型認知症(AD)の重症度と脳血流低下部位の検討
2. レビー小体型認知症(DLB)におけるMIBG心筋シンチグラフィーと臨床症状との相関
3. 特発性正常圧水頭症(iNPH)とアルツハイマー型認知症(AD)の鑑別におけるeZISの有用性
4. レビー小体型認知症とアルツハイマー病における臨床症状、APOE遺伝子多型分布とイメージングとの相関
研究活動のねらい
精神脳科学研究グループは,感情の障害~意識・認知記憶~社会性の障害等に関わる,種々の精神疾患の病態理解と新たな診断・治療法開発に関する研究を進めている。環境と脳神経回路発達,シナプス機能障害を軸とした変異脳神経回路網の修復と再生をメインテーマに,国内外の先端的研究機関と協力し,成体脳の神経回路再生能を制御する方法に取り組んでいる。
病態研究 -精神の病をどのようにして解明していくのか?-
1. うつ病 -解明進む神経新生異常の関与-
(国立精神・神経医療研究センターとの共同研究)
近年,神経幹細胞からの神経新生の異常としてのうつ病の病態解明への取り組みが始まっている。我々はこれまでに,気分障害の病態におけるcAMP/CREB細胞内情報伝達系の重要性を報告し,抗うつ薬が,これらの機序に関連して神経幹細胞の分化を促進させること,また,神経幹細胞における脳由来神経栄養因子 (BDNF) の発現を増加させることを報告した。また,うつ病自殺者死後脳における小胞体ストレス蛋白質の増加の報告,双極性障害の病態と小胞体反応系の低下や,気分安定薬バルプロ酸による小胞体ストレス蛋白質の増加。さらに,慢性的な抗うつ薬の投与またはECTによってユビキチン化に深く関与する蛋白の発現上昇などの報告で示唆されているうつ病の病態における細胞内小器官,小胞体の機能異常の報告に着目し,小胞体ストレス負荷時の神経幹細胞の機能変化に対する抗うつ薬の影響について調べ,抗うつ薬の処置が小胞体ストレスによる神経幹細胞の神経分化抑制を軽減すること,並びに,小胞体ストレス関連蛋白質GRP78の発現増強を抗うつ薬の処置が抑制することを明らかとした。
さらに,抗うつ薬が神経幹細胞の神経分化を促進させる細胞内の分子機構について,非神経組織や未分化な細胞に多く発現し,BDNFをはじめ,突起伸展を促進し神経可塑性に関与するSCG10,神経活動に必須とされるⅡ型Naチャンネルなど、多数の神経特異的遺伝子群の発現に関わる転写抑制因子であるNRSFに着目した検討を進め,抗うつ薬の神経細胞分化促進作用に,小胞体の機能変化,およびERKシグナルの変動を介した転写抑制因子NRSFの活性変化の関与が考えられ,これがうつ病の病態基盤に何らかに関わる可能性が考えられ,これらの知見を踏まえ,うつ病と神経新生異常の関連について,共同研究も含めて検討を重ねている。
2. 統合失調症 -社会性認知機能障害におけるGABA系interneuron産生異常の関与
(シドニー大学心理学部精神薬理/プロテオミクス研究講座との共同研究)
統合失調症では,幻覚・妄想などの陽性症状の問題に加え,注意,言語記憶,作業記憶,実行記憶,視覚・運動処理能力などの幅広い認知領域が障害されており,これが,患者の職業的・社会的復帰の妨げになっていることが指摘されている。これまでに我々は,精神疾患の認知・行動異常を改善させる脳内メカニズムとして,神経回路網維持・修復効果の重要性の観点から研究を進め,前述した第二世代抗精神病薬が,栄養因子シグナル伝達系の増強と小胞体機能変化を介して“神経細胞保護効果”と“神経新生促進効果”を発揮し,脳の神経回路網の維持・修復を促進させることを明らかとした。近年,生後の脳においても脳室周囲(SVZ)領域で産生され続け,皮質領域,および皮質下領域へmigrateしていることが明らかとなっている。SVZの細胞群で,このような機能を発揮しているものとして,NG2 proteoglycan陽性の細胞が注目されている。NG2陽性細胞は,oligodendrocyte前駆細胞として知られてきたものであるが,近年,成体脳において,一部がGABAergic interneuronとして分化し,皮質側へ遊走していることが報告されている。こうした知見を背景に,我々は,成体脳GABAergic interneuron産生に及ぼす抗精神病薬の影響について検討を進めた。その結果,成体脳においても,oligodendrocyte,およびGABA系interneuronの新生を担っているNG2陽性細胞の分化機能が,NMDA antagonistの処置によって変化し,そのGABAergic interneuronの産生のみが特異的に減少することが示された。NG2陽性細胞は,SVZのみならず海馬でも新たなGABAergic interneuronの新生に関わっていることが知られており,その変異と統合失調症の脳病態との関連が推察された。また,検討した3つの非定型抗精神病薬は,いずれもMK-801によるPV陽性のGABAergic interneuronの分化障害を抑制する効果を示し,なかでも,Olanzapineはoligodendrocyteへの分化も同時に促進させる作用を示したことから,この違いが薬剤の臨床効果の違い,特に,社会的認知機能の回復効果の違いにどのように関わるかについて興味がもたれる。
3. アルコールによる神経新生の異常と神経回路網変異
(札幌医科大学医学部医化学講座/医療人育成センターとの共同研究)
アルツハイマー病における認知・記憶の障害に結びついた海馬・前頭葉の萎縮や,再発を繰り返すうつ病患者,あるいはコルサコフ症候群に代表されるアルコール性健忘症候群における海馬の萎縮に対する,共通した生物学的病態基盤の存在が推察できる。アルコールはBDNFの産生低下などを介して神経細胞そのものの生存を低下させ,神経系に障害を誘導する可能性があるが,一方,我々は,アルコールが脳の神経系に及ぼす影響はそれだけではなく,新たに神経細胞を産生・供給する機能としての神経新生の異常も関与するのではないかと考え研究を進めてきた。初めに,アルコールを神経幹細胞に処置することによって,神経細胞の生存に影響を与える濃度よりかなり低濃度で神経幹細胞から神経細胞への分化が特異的に障害されることを見出した。またこの時,神経幹細胞の増殖や遊走能はそれほどはっきりとした変動を示さなかったことから,この神経幹細胞から神経細胞への分化の抑制という現象が最も特異的なアルコールによる神経幹細胞の機能異常ではないかと考え,神経幹細胞内のシグナル伝達系分子の変化を含め,さまざまな面からの解析を実施している。我々はさらに,神経幹細胞からグリア細胞へ分化についての検討を進め,神経細胞への分化とは全く逆に,グリア細胞への分化が増加することを見出し報告した。この実験結果の生理学的な意義は非常に大きいと考えられた。すなわち,脳内での神経幹細胞の供給が低下し,代わりにグリア細胞が増えることは,長期のアルコール摂取によって脳の神経回路網が修復・改変していく際に多大な影響を及ぼしうることを示すものと考えられた 。加えて我々は,アルコールによって変化する,神経幹細胞において分化の方向性を決定するメカニズムについての検討を進め,神経幹細胞にアルコールを処置した際の核内転写因子NRSF/RESTのDNA結合活性変化を解析した結果,神経細胞に直接的な生存機能の障害を生じさせない濃度のアルコール処置が神経幹細胞の分化決定に重要な転写因子の活性を変化させるという重要な知見を得た。アルコールによって神経幹細胞から神経細胞への分化が減少し,逆にグリア細胞への分化が増強することを示したが,これには,本転写因子NRSF/RESTの活性変化が大きな役割を担っていることが推察され,詳細について解析を続けている。
4. ヒト死後脳を用いたDNAメチル化エピゲノム解析
理化学研究所脳科学総合研究センター,東京大学分子精神医学講座との共同研究)
精神疾患は,遺伝的要因に加え,環境要因が深く関与して発症に至ると考えられている。しかしながら,長年にわたる遺伝学的研究にも関わらず,多くの精神疾患において,その明確な原因遺伝子は未だ明らかになっていない。そこで我々は,精神疾患とエピゲノムの関わりを探るべく,双極性障害,および統合失調症患者死後脳を用いて,DNAメチル化状態の変異に注目した解析を行っている。特に,死後脳試料を,神経細胞特異的マーカーを用いて神経細胞核と非神経細胞核に分離し,神経細胞特異的な所見として,1塩基単位でのDNAメチル化変異解析を行うなどして,従来法ではつかまえることができなかった,精神疾患の分子生物学基盤情報の特定に迫りたいと考えている。
5. ヒト患者由来iPS細胞を用いた病態解明の試み(新学術領域研究)
(理化学研究所脳科学総合研究センター他との共同研究)
精神疾患研究の難しさの1つには,ヒトの病態をうまく反映した病態モデルの作製が困難であることがあげられる。例えば、統合失調症においては,これまでに,種々の原因候補遺伝子を改変したマウスが作製され,それらの動物ではある程度ヒトの病態に類似した行動を示すモデル群が確認されているが,多くの精神疾患が,複数の遺伝子異常の組み合わせで成り立っているとの近年の大規模遺伝子解析研究の結果は,単一遺伝子の改変動物を用いるだけでは,より高い精度でヒト精神疾患の病態解明研究を進めていくことに限界があることを示唆していると考えられる。そこで私たちは,文部科学省のプロジェクトにおいて,ヒト精神疾患患者から作製した iPS 細胞をマウスに移植することよって新たな精神疾患病態モデル動物を作製しようとする試みを始めている。ヒト患者の体細胞より作成したiPS細胞から,神経系の細胞に分化を進めた neurosphereを得て,これをマウスの脳内や胎児頭蓋内,および末梢静脈内に投与する方法で移植し,移植した動物の脳神経回路網の変化や行動異常を解析していこうとしている。加えて,同時に iPS-neurosphere を用いた in vitro 解析を実施し,うつ病や統合失調症患者由来の神経系の細胞の脆弱性や,発達の異常につながる細胞病態の発見,そしてそれを是正する新薬ターゲット候補の特定等を目指した研究を進めている。
新たな治療法開発 -精神疾患を根っこから治したい-
(薬物+細胞療法による精神疾患の脳神経回路網修復の可能性)
治療薬が,精神疾患患者の社会性・認知機能障害の改善効果を有することが明らかとなっても,臨床においては,薬物療法や,さらには電気痙攣療法にも反応性の乏しい難治症例に対する有効な対処法はほとんど存在しないという現実がある。こうした問題に対して,我々は,精神疾患の脳で生じた神経回路異常をより直接的に修復する目的で,細胞を用いた再生医療的方法の可能性について検討を続けてきた。胎生期にストレスを曝露させた精神疾患モデル動物を用いた検討では,胎生期の一定期間にストレス(アルコール,poly I:C等)を加えた病態モデルに,(蛍光およびRI)標識した神経幹細胞を経静脈的に投与し,細胞投与による行動障害の改善効果について評価を行い,モデル動物における記憶・認知機能,社会コミュニケーションの機能異常と,神経幹細胞を投与した群におけるその改善を明らかとしてきた。また,精神疾患の脳で生じた神経回路変異を,障害領域に特異的に移行する性質をもった細胞(幹細胞)と,既存の神経細胞の生存機能を上げ,かつ内在性の神経新生能を促進させる処置(薬剤・運動・リハビリテーション)の両者を組み合わせることによって,より効果的に修復・再生する方法を確立しようとする試みを続けている。
ご紹介
札幌医科大学附属病院では、2003年12月1日に、神経精神科・泌尿器科・婦人科・乳腺内分泌外科・形成外科が協働で、性同一性障害(GID)クリニックが設置されました。依頼、身体治療を希望する多くの方々を中心に、診断や相談、ケアを希望する多くの当事者に対応してきました。現在は、幹メンタルクリニック(精神科)が連携施設となり、二施設で独立した面接により確定診断を行い、当事者の抱える悩みやメンタルヘルス不調などに適宜、対応し、また身体治療前後での心理社会的評価などを行いながら多職種による支援に努めています。
特に2015年以降は、あらためて受診者のデータ整備を行い、再解析を行い、また心理社会的評価や治療効果判定の方法も一新し、また当事者に近いところでより具体的な支援を講じることができるようにと、包括的な研究に着手しています。さらに、性別違和/性別不合から、さらに広くジェンダーに関わる課題全体を研究の対象とし、疾患や行動病理をジェンダーの視点でとらえ直そうという形で各自が研究テーマに取り組んでいます。
たとえば、この10年間の推移をみても、性別違和/性別不合への関心、認知度は高まっていますし、多様性を受け止めようという動きは確実に高まっています。しかし、認知度が上がるとともに,トランスジェンダーに対する不適切な発言も聞かれるようになったのも確かですし、当事者の生きづらさはまだまだ続いています。私たちの診療・研究活動が、当事者の皆様の支えになればと思います。
コンセプト
本研究グループでは、精神療法やそれに関連した精神病理など、精神科診療における心理学的側面について、主に人文科学的な観点から理論的に研究しております。従来の精神病理学とは異なり、英語圏の分析哲学(心の哲学、精神医学の哲学、感情の哲学など)の知見に依拠し、自然科学系の人間科学(神経科学、認知科学、各種心理学など)の成果をとり入れた、メタ心理学的研究を主体としている点に特徴があります。また、単に理論的な研究を行うだけでなく、実臨床に役立つ新しい精神療法の開発やその効果研究なども行っております。
研究テーマ
本研究グループでは、以下を3本柱にしております。
(1)精神療法のメタ心理学的研究
(2)新しいメンタルヘルス概念ないし精神疾患モデルの提唱
(3)精神医学の基礎的概念に関する哲学的研究
(1)精神療法のメタ心理学的研究
- 森田療法の背景にある人間観や心の健康観にまで踏み込んだメタ心理学研究
- 上記研究成果に基づいた、新しいより効果的な精神療法―「10分間外来森田療法」―の開発とその効果研究
(2)新しいメンタルヘルス概念ないし精神疾患モデルの提唱
- 「あるがまま」概念の哲学的研究に基づく新しいメンタルヘルス概念の提唱
- 「生物・心理・社会モデル」に代わる、新しく有用な精神疾患モデル―「内因・心因並行モデル」―の提唱
(3)精神医学の基礎的概念に関する哲学的研究
- 「トラウマ(心的外傷)」の実在性に関する哲学的研究―「トラウマ反実在論」の展開
- 精神分析が仮定する無意識理論の批判的検討―「反心理学的・機械論的無意識論」の展開
その他
本研究グループでは、上記の研究活動と並行して、当講座に勤務する精神科医、心理士、ソーシャル・ワーカー、作業療法士などのスタッフが、精神科診療における心理学的側面に関する理解を深め、それを臨床実践に活かすお手伝いをしております。
・集団精神療法の企画および実施
・精神療法やカルテ記載に関するセミナーの開催 ・精神療法的関わりについてのカンファレンスの開催